慢性心不全の治療で使われるお薬のこと
薬物治療の目的
薬物治療(お薬による治療)は、心不全治療の基本となる大切なものです。薬物治療の目的は、大きく分けて以下の2つです1)。
- 息切れ、むくみなどの症状を改善し、生活の質(QOL)をよくすること
- 心不全の進行や悪化を防ぐこと
医師は患者さんの状態をみて、それぞれの目的に適したお薬を処方します。心不全のお薬には様々な種類があり、主に4つのタイプに分けられます。これらのお薬は効果が似ていても作用する場所が異なるため、数種類のお薬を一緒に使う場合があります。
- 1)Katz AM. Am J Cardiol. 1988; 62(2): 3A-8A. を参考に作成
心不全の治療で使われる主なお薬2)
心不全治療の原則は、心臓の働きを低下させた原因をはっきりさせて、まずはその原因となる病気を治療することから始めます。
たとえば、高血圧が原因の場合は、血圧を下げるために降圧薬が処方されます。
心不全の治療薬には、症状を軽くしたり症状が出ないようにするものと、心臓が悪くなっていくのを抑えるものがあります。
- レニン・アンジオテンシン系抑制薬
心不全では心臓に負担をかけるホルモン(レニン・アンジオテンシン)が過剰に分泌されます。これらのホルモンの働きを抑えます。
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
副腎から分泌され、体内の水分貯留や血圧上昇に関連するアルドステロンというホルモンの働きを抑えます。
- β(ベータ)遮断薬
交感神経の緊張を和らげます。
- HCN(エイチシーエヌ)チャネル遮断薬
心臓の働きを悪化させることなく、心拍数(脈)をゆっくりにします。
- SGLT2(エスジーエルティーツー)阻害薬
尿中への糖と水分の排泄を増やします。
- 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬
血管を拡げ、心臓を収縮しやすくします。
- 利尿薬
からだにある余分な水分や塩分を尿として排出します。
- 強心薬/ジギタリス製剤
心臓の血液を送り出すポンプ機能を強化します。
2)日本心不全学会『心不全手帳』(2022年10月 第3版)を参考に作成
大石醒悟ほか(編集):心不全治療薬の考え方,使い方, 中外医学社, 2019, pp1-17,241-246.
小室一成:よくわかる最新医学「心不全」, 主婦の友社, 2021, pp104-107.
佐藤直樹(監修): 心不全がわかる本「命を守るためにできること」, 講談社, 2022, pp50-53.